劇中の夢を現実へ:NFLスターたちが魅せられた「JDM」と東京カーカルチャー
写真展示企画11
0. JDMブームと25年ルール
NFL選手の日本訪問を記録していると、ときどき「この選手、かなり車が好きなのでは?」と思う写真に出会います。 私自身、クルマ文化に詳しいわけではありませんので、最初は「日本車が好きなんだな」くらいに思っていたのですが、写真に写っている車や場所を調べていくと、どうやらアメリカのクルマ好きにとって、日本の車やカーカルチャーには日本人が思っている以上に特別な意味があるようです。 今回は、NFL選手たちが日本で撮影した写真を入り口に、「なぜアメリカのクルマ好きは日本に惹かれるのか」を少し調べてみました。
「JDM(Japan Domestic Market)」という言葉は、もともとは日本国内市場向けの車や仕様を指す言葉です。一方、海外のクルマ好きの間では、日本車そのものや、日本のカスタムカー文化まで含めて「JDM」と呼ぶこともあります。
アメリカで日本車が特別な存在になっていった背景には、1990年代以降のゲームや映画、アニメなどの影響があります。『グランツーリスモ』に登場したスカイラインGT-Rやランサーエボリューション、『頭文字D』に登場するAE86やRX-7、そして『ワイルド・スピード』シリーズに登場したスープラやGT-R。日本人にとっては身近な存在だった車たちが、アメリカの若い世代にとっては「日本で走ってい憧れの車」になっていったようです。
しかも当時の日本国内向けスポーツカーなどには、アメリカで簡単には手に入らないモデルも多くありました。アメリカでは安全基準などの関係から、原則として製造から25年未満の車両を通常の方法で輸入することができません。いわゆる「25年ルール」です。
そのためアメリカのクルマ好きにとって日本は長い間「憧れていた車が実際に走っている国」でもあります。現在は25年を迎えた車が少しずつ輸入できるようになるにつれ、かつてゲームや映画の中で見ていた日本車を、今度は自分の車として手に入れる人も増えていきました。
日本では何気なく見かける車が、アメリカでは長い間「簡単には手に入らなかった憧れの車」だった。この違いが日本のカーカルチャーがアメリカのクルマ好きにとって特別に映る理由の一つなのかもしれません。
今回はNFL選手の訪日記録を追っていて私自身が「なるほど」と思ったことを、写真と一緒に紹介していきます。
English Version (AI Translated)
1. 大黒PA:ナイトミーティングの聖地
日本のカーカルチャーを象徴する場所の一つが、首都高速湾岸線にある大黒ふ頭パーキングエリア(大黒PA)です。
週末の夜などには、さまざまな車やカーオーナーが自発的に集まり、ナイトミーティングとも呼ばれる愛車を並べて交流する光景が見られます。その独特の雰囲気はSNSを通じて海外にも広く知られるようになり、現在では日本を訪れる海外のクルマ好きにとっても有名な場所になっています。
日本人からすれば「高速道路のパーキングエリア」ですが、海外のクルマ好きにとっては、日本の車やカスタムカーを実際に見ることができる場所。ゲームや映画でしか知らなかった日本のカーシーンを、現実の世界で体験できる場所でもあります。
ただし大黒PAは一般的な観光地とは少し事情が違います。高速道路上のパーキングエリアなので、徒歩や自転車などで自由に出入りすることはできません。公共交通機関だけで気軽に訪れることも難しく、訪問には車などの移動手段が必要です。
「有名だから行ってみよう」と気軽に立ち寄れる観光スポットではないからこそ、ここを訪れる海外のクルマ好きには、それだけの目的や興味があることが分かります。
クエンティン・レイク
選手を中央から左寄りに配置し、後ろ姿で捉えることで、右奥に広がる大黒PAのシンボル——オレンジの灯に照らされた大黒JCTの巨大なループ構造へと自然に視線が誘導されます。右手に佇むのはスカイラインGT-R(BNR34)、しかもナンバーは「34」。計算された構図と象徴的な車種選びにより、大黒PAのナイトミーティングの熱気を完璧に切り取った1枚です。

シラン・ニール
空に美しく弧を描く大黒JCTのループが画面いっぱいに広がり、遠くの街灯までくっきりと収められています。手前に映えるのは、特徴的なヘッドライトを展開した赤の日産・180SX。赤とカーキのシャツを纏うニール選手の後ろには鮮やかなオレンジの車が寄り添い、鮮烈な色彩の中で彼が日本のJDMシーンへ自然と溶け込んでいくような、ストリート感あふれる1枚です。

黄色くライトアップされた大黒PAのシンボルタワーと、上空を覆うジャンクションの高架。その直下に広がるのは、スカイラインGT-Rの丸型4灯テールランプと、『ワイルド・スピード』にも登場したカスタムスタイルであるアンダーネオンが暗闇を焦がす熱気あふれる空間です。奥にも名車たちがひしめき、映画の世界そのままのディープな夜の顔を捉えています。

こちらは施設2階のデッキから、駐車場と併設する道路を見下ろす構図で撮影されています。スカイラインGT-R(BNR34)を中心とした極上のJDMスポーツカーがずらりと並んでおり、夜間に海外ファンやオーナーが集う大黒PAの典型的なシーンを上からのアングルで捉えた写真です。

ニール選手はナイトミーティングに集まるオーナーたちとも積極的に交流されたようです。愛車の前で笑顔でサムズアップを交わし、夜の熱気の中をリラックスして歩き、開け放たれたボンネットの中身を覗き込んでチューニングのこだわりを語り合う姿が収められています。
言語や文化の壁をあっさりと飛び越え、同じ「JDM」を愛する同志として心を通わせるシラン・ニール選手たちの姿。大黒PAがなぜ世界中のクルマ好きから聖地と呼ばれるのか、その答えがこの写真群に凝縮されています。

ケリー・ハイダー
右奥に輝く特徴的なライトアップと斜め吊りのケーブル構造は、東京の夜のドライブの象徴であるレインボーブリッジです。都心から湾岸線を経由して大黒PAへ向かうルート(またはその帰り道)の定番にして最高峰のロケーション。隣の車線を走るセダンと並走しながら夜の高速道路を滑走する姿は、投稿のキャプションにある「Tokyo Nights」という言葉そのものです。

首都高ドライブを満喫した後の、大黒PAでのチルタイムの瞬間です。左側はライトアップされた大黒PAのシンボルタワーとループ高架を背景に、リラックスした雰囲気で飲み物を口にしています。右側は大黒PA名物のフード自販機コーナーで買い物をされている様子。日本でも街中では珍しいフード自販機と、大黒PAのJDM文化の両方を楽しんだ様子が伝わってきます。

2. LIBERTY WALK:世界を魅了する日本発のスタイル
愛知県尾張旭市を拠点とするLIBERTY WALKは、海外でも高い知名度を持つ日本発のカスタムカーブランドです。 高級車に大胆なボディ加工を施し、オーバーフェンダーをリベットやボルトで固定する独特のスタイルは、日本のカスタムカー文化を象徴する存在の一つとなっています。 そのスタイルは日本国内だけにとどまらず、アメリカをはじめとする海外のカーイベントにも進出しており話題になっています。ファッションの中心地に出店した東京原宿にあるストアには複数のNFL選手が訪れています。
ジェフリー・バッサ
撮影場所はLIBERTY WALKの旗艦店、原宿・神宮前の「LB-STORE TOKYO」での一枚。美しく輝くメタリックグリーンのボディには「東京原宿」の文字やグラフィックが鮮やかに映えます。単なる車好きにとどまらない、日本の最先端ストリートカルチャーのトレンドを的確にキャッチアップする彼らの感性の鋭さが伝わる1枚です。

イザック・ゲレンド
同じく「LB-STORE TOKYO」に佇むのは、世界中のカスタムカーファンを熱狂させるリバティーウォークのコンプリートカーたち。手前の車両はリバティーウォークの代名詞ともいえるコンプリートボディキット「LB-WORKS R35 GT-R」。後ろに映るのは、ダイハツ コペンをGT-Rのフロントフェイスにオマージュした遊び心あふれる大人気モデル(GT-K)です。

マイルズ・ギャレット
放射状に広がる強いブラーと上下対称の鏡像構図を組み合わせることで、LB-WORKS R35 GT-Rをまるで異次元から出現したアートピースのように昇華させています。「リバティウォーク」の文字とGT-Rエンブレムを視線の中心に据え、スピード感と視覚的重厚感を両立。フォトグラファーの一面を持つギャレット選手らしい、高い創造性とテクニックが光る一枚です。

3. ディープな車好きの領域へ:「パーツ・サーキット・オーナー対談」
サムソン・エブカム
エブカム選手が訪れたのは、日本を代表するGTレース「SUPER GT」の舞台、富士スピードウェイです。エブカム選手は大のアニメ好きでもあり、当日彼が穿いていたパンツには『NARUTO -ナルト-』のうちはイタチの名前がプリントされていました。 そんな彼が富士スピードウェイで訪れたのが、GOODSMILE RACINGのピットです。フィギュア販売を手掛けるグッドスマイルカンパニーが展開する「初音ミク GTプロジェクト」のレーシングチームで、初音ミクのイラストをあしらったレーシングカー、いわゆる「痛車」でSUPER GTで強豪チームとしても知られています。 アニメと日本のモータースポーツ。その二つを同時に楽しめるのも、日本のカーカルチャーの面白いところです。
1枚目の写真左側には、グッドスマイルカンパニー代表の安藝貴範氏の姿も見えます。

2枚目は、チームのエースドライバーである片岡龍也選手とのツーショットです。

3枚目の写真では、体を前傾させてエンジンルームを食い入るように見つめています。単なる観光ではなく「世界最高峰のGTマシンの構造を本気で知りたい」という一人のカーマニアとしての熱量とリスペクトがひしひしと伝わってきます。

こちらはアップガレージ横浜町田総本店を訪れたエブカム選手と、アップガレージグループ社長・河野映一氏のスペシャルショット。二人の背景には、SUPER GTを戦い抜いたTEAM UP GARAGEの「NSX GT3(18号車)」も収められています。中古カーパーツの宝庫として世界中のJDMファンから聖地と崇められるアップガレージ。日本のチューニング&モータースポーツ文化の真ん中に自ら飛び込み、トップと笑顔を交わすエブカム選手の情熱が感じられます。

アップガレージ訪問時には、粋な計らいでフェアレディZ Z33オーナーとの対談も用意されていました。写真はZオーナーのあきさん(X:@HANDS_OF_GLORY_)との交流後のオフショットです。エブカム選手はあきさんの自作カスタムパーツなどについて熱心に質問されていたとのこと。
交流の様子はあきさんのYouTube動画でも公開されており7分過ぎからエブカム選手が出てきます。
4. ストリートに佇むJDM
サムソン・エブカム
極端なローアングルで見上げるほど巨大な東京タワーの赤い光の下、青いアンダーネオンを静かに光らせるのはリバティーウォークのGT-R(R35)。ナンバープレートの上に「LB★PERFORMANCE」のプレートが見え、日本を訪れたNFLアスリートに対するリバティーウォークが特別に用意したアテンドツアーであることが伺えます。

シラン・ニール
夜の都内の交差点。信号待ちのわずかな瞬間に、車内から撮影された1枚です。前を走るのは、アメリカのクルマ好きにも広く知られるスカイラインGT-R(BNR34)。日本では今も実際のストリートを走る姿を見ることができますが、海外のファンにとっては、長年憧れの対象となってきた特別な存在です。
そんな車が目の前を走っていることに、クルマ好きのニール選手が思わず助手席からスマートフォンを向けたのでしょう。観光地で撮影した写真とは違う、偶然の出会いをそのまま切り取ったようなライブ感があります。
手前のダッシュボードには、伝説的な日本のチューナー「TOP SECRET」のステッカーも。何気ない東京の夜の一場面ですが、クルマ好きなら思わず目を留めたくなる要素が詰まった1枚です。

こちらも同じくGT-R(BNR34)。ニール選手が先述の大黒PAでの写真と同じ服装であることから、ストリートで撮影されたこの1枚はナイトミーティングからの帰り道、あるいは移動中に撮られたものかもしれません。国境を越えたクルマ愛好家同士の友情と、夜のドライブの余韻が鮮明に浮かび上がってきます。

イザック・ゲレンド
新宿西口・ヨドバシカメラマルチメディア館前で捉えた1枚。マシンはスポーツ&高級車のレンタカーサービスを展開するI AUTO RENT-A-CARのPANDEM仕様GR86。夜の新宿を彩る巨大な赤ネオンの下、行き交う人波の中に突如としてレーシングマシンが舞い降りたような、臨場感あふれるストリートスナップです。

リッキー・ピアソル
ゲレンド選手とほぼ同じ構図。2人はサンフランシスコ-49ersの同期入団であり、同行来日中に同じタイミングで撮影されたことは間違いありません。ゲレンド選手の引きの構図に対し、こちらはローアングルからマシンに接近する「寄り」の構図。絶妙に人物をフレーム外に収め、頭上のネオンとワイドボディの面構えを強調した、サイバーパンク感あふれる1枚に仕上がっています。

エリック・ケンドリクス
南青山の信号待ちの車列の中で、ケンドリクス選手がカメラを向けたのは、日産シルビア(S15)でした。
日本のストリートやドリフトカルチャーを代表する車の一つとして、海外のクルマ好きにも知られているS15。よくみると洗練されたLEDテールとリアのエアロフォルムが、都会の風景の中でもひときわ目を引きます。
東京の日常の道路を走っているS15を見つけ、すぐにカメラを向けたケンドリクス選手。日本人にとっては何気ない街角の一場面でも、海外のクルマ好きにとっては、日本を訪れたからこそ出会えた一瞬なのかもしれません。

まとめ:文化へのリスペクトが生んだ、国境を超える「JDM」の絆
かつてスクリーンやゲーム画面越しに憧れていた「JDM」の世界。大人になり、フィールドでトップアスリートとして活躍する彼らが日本を訪れ、憧れていた車や、それを生み出してきた日本のカーカルチャーに触れる姿は、一つの興味深いストーリーを描いています。
大黒PAでの夜の熱気から、LIBERTY WALKやアップガレージといったカルチャーの発信地、さらには富士スピードウェイのピットエリアまで——。
彼らが日本でカメラに収めたのは、単なる「観光の写真」だけではありません。そこには、日本の街を走るJDMやカスタムカー、モータースポーツ、そしてそれらを支える人々や文化との出会いがありました。
日本人にとっては身近な存在である日本車やカーカルチャーも、海を越えた場所から見ると、長年憧れてきた特別なものに映るのかもしれません。